Kennard-Robertsonの不確定性関係とArthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係

この記事はPhysics Advent Calendar22日目の記事です。前日の記事はadharaさんの物理学におけるノンコンパクトリー群・リー代数の役割です。明日は今のところ空いています。この記事を読んだ物理学関係者は記事を書きましょう。

さて2017年を振り返ると今年もいろいろな物理のニュースがありました。重力波の検出という素晴らしい研究にノーベル賞が与えられ、"時間結晶"が実験室で作られ(APSのHighlights of the Yearでも取り上げられていますね)、日本初の「量子」コンピュータが作られました。この様子は日経サイエンスによくまとめられています。そして、仮面ライダーの主人公が物理学者になりました。仮面ライダービルドです。非常に残念なことにテレビがないので視聴できてないですが、物理関係者が日曜の朝に何かしらの物理現象をTLでつぶやいている様子は毎朝視聴しています。そういえば、先の日経サイエンスには仮面ライダーの方程式という記事がありましたね。(日経サイエンスの記事をやたら紹介していますが僕は日経サイエンスの回し者ではないです。)

その記念すべき第一話にはKennard-Robertsonの不確定性関係、第二話にはArthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係が登場しています。これらの不確定性関係についていつか記事を書きたいなと思っていたのですが、もう年末になってしまったので、このAdvent Calendarの場を借りて書きたいと思います。はじめに断っておきますが、この記事は量子物理学の基本的な知識(物理量がエルミート演算子で表現されるとか合成系はテンソル積で表現されるとか)を仮定します。また数学的に厳密ではないので予めご了承ください。

そもそも不確定性関係とは?

不確定性ってなんでしょう?言葉をそのまま解釈すると確定してない度合いということです。我々は物理量の"値"が確定しているということを期待しています。粒子の位置という物理量を測定することを考えます。何度も何度も同じ状態の粒子の位置を測定することで確率分布を得ることが出来ます。この確率分布を見たときいつも同じ値が出てれば、なるほどめっちゃ確定してるやん!めっちゃばらついていたら、めっちゃ不確定やんってことが分かるわけです。不確定性関係はこの確定していない度の間になりたつ関係のことです。

Kennard-Robertsonの不確定性関係

もともとHeisenbergが思考実験として提案したのが1927年に不確定性関係です1。この実験はガンマ線顕微鏡を用いて、位置を正確に測定すればするほど運動量を変化させてしまうというものです。このあとKennardが似たような不確定性関係を証明し2、Robertsonが一般化する3のですが、実は似ているだけで別物です。これらをまとめてKennard-Robertsonの不確定性関係と呼びますが、Kennard-Robertsonは測定によって変化するということは考えていないのです。

じゃあどんな状況を考えているのかというと、粒子をいっぱい準備して半分はある物理量(ここでは\(X\)と呼ぶことにしよう)を測定し半分はある物理量(\(Y\))を測定するという状況です。半分と言っていますが実際のところはどちらも十分に多く測定しています。このときの状態(状態とは実験的状況を表す数学的対象)を\(\left|\psi\right>\)であるとすると、物理量\(X\)の期待値は\(\left<\psi|X\psi\right>\)です。\(V(X)=\left<(X-\left<\psi|X\psi\right>)^2\right>\)は分散と呼ばれ、分散の平方根\(\sigma(X)=\sqrt{\left<(X-\left<\psi|X\psi\right>)^2\right>}\)は標準偏差と呼ばれています。もちろんばらつき具合を表す指標はこの標準偏差が唯一のものではないですが、ここ(仮面ライダービルド)ではXやYのばらつきとしてこの分散\(V(X)\)と\(V(Y)\)を採用します。Kennard-Robertsonの不確定性関係と呼ばれているものは
\[ V(X)V(Y)\geq \frac{1}{4}\left|\left<\psi|\left[X, Y\right]\psi\right>\right| \] というものです。この\(\left[X, Y\right]=XY-YX\)で交換子と呼ばれているものです。

証明は高校で習うであろうコーシー・シュワルツの不等式から出ます。分散は\(X-\left<\psi|X\psi\right>\)の二乗の期待値ですから、扱いやすさのため\(\Delta X = X-\left<\psi|X\psi\right>\)と定義しましょう。\(\Delta X\)は演算子であることに注意です。同様に\(\Delta Y\)を定義します。この演算子を用いて\(\left|\phi\right>=\left(\lambda\Delta X + i \Delta Y\right)\left|\psi\right>\)を定義します。どんな\(\lambda\)についても、内積\(\left<\phi|\phi\right>\geq0\)です。左辺を計算していきましょう。
\[ \left<\psi| \left(\lambda\Delta X - i \Delta Y\right) \left(\lambda\Delta X + i \Delta Y\right)\psi\right>\geq 0 \] \[ \left<\psi |(\Delta X)^2\psi\right>\lambda^2 +i\left<\psi |\left[\Delta X, \Delta Y\right]\psi\right>\lambda+\left<\psi |(\Delta Y)^2\psi\right>\geq 0 \] ここで左辺の第一項が二次関数になっていることに注目しましょう。一次の係数が実数になってるのか不安になるかもしれません。実際、エルミート演算子の交換子は反エルミートなのでその固有値は純虚数または0になります。そこに\(i\)をかけているので一次の係数は実数になっています。つまり係数は全て実数になっている中学で習う二次関数そのものです。さらに、二次の項の係数は正なので、
二次関数
こんな感じの下に凸な二次関数になっていることが分かります。この二次関数が全ての\(\lambda\)について正であるということは、この二次方程式が解を持たないということです。つまり中学で習う判別式を見ればいいことがわかります。仮面ライダービルドの黒板でも\(D\)と書かれているのが見えますね。
\[ D=-\left<\psi |\left[\Delta X, \Delta Y\right]\psi\right>^2-4\left<\psi |(\Delta X)^2\psi\right>\left<\psi |(\Delta Y)^2\psi\right>\leq 0 \] 先にも述べたように\(\left<\psi |\left[\Delta X, \Delta Y\right]\psi\right>\)は純虚数または0です。ということは、二乗してやると負になっているのです。このことに注意して絶対値をとると、
\[ \left|\left<\psi |\left[\Delta X, \Delta Y\right]\psi\right>\right|^2-4\left<\psi |(\Delta X)^2\psi\right>\left<\psi |(\Delta Y)^2\psi\right>\leq 0 \] \[ \left<\psi |(\Delta X)^2\psi\right>\left<\psi |(\Delta Y)^2\psi\right>\geq \frac{1}{4}\left|\left<\psi |\left[\Delta X, \Delta Y\right]\psi\right>\right|^2 \]が導けます。さらに右辺の交換子を計算してやると、\[ \left<(\Delta X)^2\right>\left<(\Delta Y)^2\right>\geq \frac{1}{4}\left|\left<\left[\Delta X, \Delta Y\right]\right>\right|^2 = \frac{1}{4}\left|\left<\left[X-\left<\psi |X\psi\right>, Y-\left<\psi|Y\psi\right>\right]\right>\right|^2 = \frac{1}{4}\left|\left<\left[X, Y\right]\right>\right|^2 \]となります。これが黒板でIn genaral以降の数式です。これの平方根をとった
\[ \sigma(X)\sigma(Y)\geq \frac{1}{2} \left|\left<\psi |\left[X, Y\right]\psi\right>\right| \] がRobertsonの不等式です。さらに、\(X\)が位置、\(Y\)が運動量を表す物理量ならば、正準交換関係\[ \left[X, Y\right] = i\hbar \]が成り立つので、Robertsonの不等式に代入することで
\[ \sigma(X)\sigma(Y)\geq \frac{\hbar}{2} \] というKennardの不確定性関係が導けます。重要なことは物理量\(X\)を測定した粒子と物理量\(Y\)を測定した粒子は同じ状態の別の粒子であるということです。これは、Heisenbergの思考実験とは違う状況を考えているのです。

Arthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係

続いて、第二話のArthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係について書いていきます。Kennard-Robertsonを読むと、「じゃあ、一つの粒子に対して位置と運動量を同時に測定した場合はどうなるの?」と疑問を持つかもしれません。それに答えているのがArthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係4です。

そもそも、非可換な物理量は同時対角化できないことから同時測定できません。じゃあ、位置と運動量を同時に測定するという状況って不可能なんじゃ?と思うわけですが、測定の誤差を許容してやると同時に測定してやることが出来ます。つまり同時測定したものは位置や運動量そのものではなく誤差を許容した位置っぽいものと運動量っぽいものです。

一般的な測定を議論するためにはこれまでに用いてきたエルミート演算子を用いた測定ではなく、測定モデルあるいは間接測定と呼ばれる議論を用います。間接測定とは測定対象の系(システム系)と実際に測定を行う系(プローブ系)に分けて、システム系とプローブ系を相互作用させたのちにプローブ系を測定するというものである。具体的にシステム系の初期状態を\(\left|\psi\right>\)、プローブ系の初期状態を\(\left|\psi_P\right>\)、相互作用させたときの全系のユニタリ時間発展を\(U\)、その後プローブ系で測定する物理量を\(F_X\)とします。このときの測定を行う直前の全系の状態は\(U\left|\psi\right>\otimes\left|\psi_P\right>\)であり、物理量\(F_X\)を測定したときの期待値は、\[ \left<\psi |X_?\psi\right>=\left<U\psi\otimes \psi_P| I\otimes F_X U\psi\otimes\psi_P\right>=\left<\psi\otimes \psi_P|U^* I \otimes F_X U\psi\otimes\psi_P\right> \]です。ここで\(I\)は恒等演算子です。$X$っぽい物理量ということで、$X_?$と書いています。これはSchrödinger描像での記述ですが、Heisenberg描像で考えると、物理量\(U^*I\otimes F U\)を測定しています。もともと測定したかったシステム系の物理量を\(X\)とします。このとき、\[ N_X = U^* I \otimes F_X U - X \otimes I\]を誤差演算子といいます。同様に物理量\(Y\)っぽいものを測定することを考えるのですが、このとき物理量\(X\)の間接測定と同時測定できる場合を考えたいです。すなわち、相互作用\(U\)が同じで、測定する物理量\(F_X\)と\(F_Y\)が可換である場合を考えます。先と同様に誤差演算子\(N_Y = U^* I \otimes F_Y U - Y \otimes I\)を考えます。\(X\)や\(Y\)はそれらしいものを測定することを考えていましたが、期待値は測定したい元の物理量と一致する場合を考えます。これを不偏性条件といいます。具体的には\(\left<\psi |X\psi\right>=\left<\psi |X_?\psi\right>\)と\(\left<\psi | Y\psi\right>=\left<\psi |Y_?\psi\right>\)が全ての状態\(\psi\)について成り立つことをいいます。\(\left<N_X^2\right>\)の平方根を誤差の指標として採用し、\(\varepsilon(X)\)と書きます。\(\varepsilon(Y)\)についても同様に定義します。Arthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係とは\[ \varepsilon(X)\varepsilon(Y)\geq\frac{1}{2}\left|\left<\psi |\left[X, Y\right]\psi\right>\right| \]を満たすというものです。あるいは、\[ \sigma(X_?)\sigma(Y_?)\geq \left|\left<\psi |\left[X, Y\right]\psi\right>\right| \]を満たすというものです。下の式と上の式の関係は\[ \sigma(X_?)^2=\varepsilon(X)^2+\sigma(X)^2 \]から上が示せれば下も示せるのはほとんど明らかです。もちろん、先に標準偏差をばらつきの指標として採用したのに任意性があったのと同様に、誤差演算子の二乗平均の平方根は誤差の指標として唯一のものではありません。面白い点は式の上ではKennard-Robertsonと同様の形をしている点です。物理的解釈を述べるなら状態の準備における不確定性と物理量の測定における測定は同程度だということです。

証明は\(N_X\)と\(N_Y\)に関してKennard-Robertsonの関係を考えます。ここで、不偏性条件から\[ \sigma(N_X)^2=\left<N_X^2\right>-\left<N_X\right>^2=\left<N_X^2\right>=\varepsilon(X)^2 \]に注意して、\[ \varepsilon(X)^2\varepsilon(Y)^2=\sigma(N_X)^2\sigma(N_Y)^2\geq\frac{1}{4}\left|\left<\psi\otimes\psi_P|\left[N_X, N_Y\right]\psi\otimes\psi_P\right>\right|^2 \] \[=\frac{1}{4}\left|\left<\psi\otimes\psi_P|\left[X\otimes I, Y\otimes I\right]\psi\otimes\psi_P\right>\right|^2=\frac{1}{4}\left|\left<\psi |\left[X, Y\right]\psi\right>\right|^2 \]と証明できます。

まとめ

Kennard-Robertsonの不確定性関係とArthurs-Kelly-Goodmanの不確定性関係についてまとめました。これらはそれぞれ状態の不確定性と測定の不確定性と理解できるわけです。ところで、Heisenbergがもともと考えていた、誤差と擾乱の関係はどうなったのでしょう?このあとOzawaの不等式など重要な研究がなされ、またそもそも不確定性や誤差などの指標として何を用いるべきかといった研究がされていきます。万人が納得する結果は今のところないのですが、そもそもこういった研究で万人が納得すること自体不可能なことであるようにも思います。つまり、場合によって適した不確定性関係があって、使い分けていくことが大事だと思います。適当に書いた文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。もし、間違いなどがあればコメントかTwitterなどで指摘していただければありがたいです。それでは、良いクリスマスをお過ごしください。



  1. 原論文はW. Heisenberg, “Über den anschaulichen Inhalt der quantentheoretischen Kinematik und Mechanik”, Zeitschrift für Physik 43, 172–198 (1927).。僕はドイツ語を読めないので英語訳を読んだ記憶があります。たぶん"Quantum Theory and Measurement"という本にあったのだと思いますが、今手元にないので確認は出来てません。要出典です。入手が難しかったので図書館で借りたと気がします…
  2. E. H. Kennard, “Zur Quantenmechanik einfacher Bewegungstypen”, Z. Phys. 44, 326-352
  3. H. P. Robertson, “The uncertainty principle”, Phys. Rev. 34, 163-164 (1929).
  4. E. Arthurs and J. L. Kelly Jr., “On the simultaneous measurement of a pair of conjugate observables”, Bell System Technical Journal 44, 725-729 (1965).
    E. Arthurs and M. S. Goodman, M. S., “Quantum correlations: A generalized Heisenberg uncertainty relation”, Phys. Rev. Lett. 60, 2447-2449 (1988).

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